「精神世界」はこれまで色んなアーティストたちを刺激し、創作に駆り立てたテーマかと思います。
音楽ではビートルズがサイケデリックな音楽表現を通して内的世界へと向かい、アニメでは新世紀エヴァンゲリオンが登場人物の内面や無意識を作品の中心に据えました。
ここでは代表的な2つを挙げましたが、ここに挙げきれないほどのアーティストが精神世界について表現したり、インスピレーションを受けてきました。
今回紹介したいのは、写真、ドローイング、絵画、彫刻、インスタレーションなど、複数の表現を横断しながら仮想の精神世界を写真の中に構築したアーティスト「Roger Ballen (ロジャー・バレン)」です。
入荷した新作作品集『Spirits and Spaces』を中心に彼について紹介していきます!
Roger Ballenって何者?
まず彼は1950年ニューヨーク生まれ、南アフリカを拠点に活動する写真家、アーティストです。
ただ「写真家」と呼ぶだけではかなり不十分で、先ほど挙げたように写真、ドローイング、絵画、彫刻、インスタレーションなどの様々な表現を駆使して作品を作り上げるため、本人の公式サイトでも「写真・絵・インスタレーションの間」にあるものとして自作を表現しております。
写真家への入口には、母親Adrienne Ballenの存在が大きく影響しています。彼女は1960年代にMagnum Photosで働き、後にニューヨークで写真ギャラリーを開いた人物。幼いBallenは、母親の影響からアンリ・カルティエ=ブレッソンやアンドレ・ケルテスといった写真家たちを身近に感じながら育ち、13歳で初めてカメラを手にしました。
しかし彼のキャリアは実は写真家スタートではありません。
UC Berkeleyで心理学を学んだ後、Colorado School of Minesで鉱物経済学の博士号を取得。その後、南アフリカで地質・鉱物産業に関わる仕事をしながら、写真を続けていました。
南アフリカの田舎や小さな町を地質調査で訪れるうちに、そこで出会った人々や家、動物を撮り始め、ドキュメンタリー写真のような作品を発表し始めます。
現実を使って自分の精神世界へ
しかし、Ballenの写真は徐々に変化していきます。
南アフリカの人々や土地を記録するような初期の写真から、徐々に「現実を撮る」のではなく「現実を舞台として、自分の内面を撮る」方向へと変化していきます。
2001年の『Outland』は、その転換を象徴する作品です。
ここでは、現実なのか夢なのか判別できない空間の中に、人間、動物、壁に描かれた線、家具、オブジェクトなどが配置され、ドキュメンタリーとフィクションの境界が曖昧になっていきます。
Ballen自身も『Outland』を、自分が「ドキュメンタリー写真家」ではなく「アーティスト」として制作した最初の作品だと語っています。
そこから『Shadow Chamber』『Boarding House』などを経て、写真の中に存在する空間そのものが、人間の無意識や心理を映し出す「劇場」のようになっていきました。
現実を撮影しているはずなのに、そこに写っているものは現実よりも夢や悪夢に近い。
ドキュメンタリーとフィクションの境界を曖昧にし、一度見たら忘れられないRoger Ballenの世界が出来上がったのです。
COMME des GARÇONSとの関係
そんなBallenの作品に強く惹かれたファッションブランドのひとつが、COMME des GARÇONSです。
2015年秋冬のCOMME des GARÇONS HOMME PLUSでは、Ballenの作品がコートの背面などに大胆に使用されました。
さらに2015年には、京都で開催されたKYOTOGRAPHIEにおいてBallenの日本初個展「Roger Ballen’s Shadowland 1969–2014」が開催され、COMME des GARÇONSもその展覧会をサポートしています。
写真というジャンルを超えて、ファッションや空間、映像へとBallenの世界が広がっていった時期でもあります。
キャリアの転換点『Spirits and Spaces』

今回FRAGILEに入荷した『Spirits and Spaces』は、そんなBallenが新たな表現を模索した作品集です。
まず大きな変化として挙げられるのが「色」



これまでのBallenといえば、強烈なモノクロームの世界を思い浮かべる人も多いと思います。
しかし本作では、彼の長いキャリアの中でも大きな転換となるカラー写真が用いられています。
とはいえ、カラーになったからといって作品が明るくなったわけではありません。
茶色、灰色、クリーム色などの抑えられた色彩の中に、突然強い色が現れる。
その色彩が空間の異様さをむしろ強調し、まるで悪夢の中に入り込んだような、不穏で心理的な感覚を生み出しています。



本作は91点の写真から構成され、Childhood、Spectre、Animus、Shadow、Libido、Chaosという6つのセクションに分けられています。
「Childhood(幼年期)」「Shadow(影)」「Libido(欲動)」「Chaos(混沌)」など、ユング心理学を想起させる言葉も登場し、それぞれが人間の記憶、欲望、無意識、動物性、混沌といった領域へとつながっていきます。
『Spirits and Spaces』は、そんなBallenの世界をカラーという新しい言語によってさらに拡張した作品集なのではないでしょうか。
店頭にて絶賛発売中です!



既存の「写真」という概念に収まることなく、写真、ドローイング、彫刻、インスタレーションなどを組み合わせながら、現実と幻想の境界を揺さぶってきたRoger Ballen。
『Spirits and Spaces』では、その世界が初めて本格的にカラーへと開かれています。
これまでBallenを知っていた人にも、初めて彼の作品を見る人にも、ぜひ実際に手に取って見てほしい一冊です。
FRAGILEの店頭にて絶賛販売中です。
ぜひ店頭で、Ballenが構築した「精神世界」を覗いてみてください。





