『エレファント』『マイ・プライベート・アイダホ』『ドラッグストア・カウボーイ』などを手掛け、アメリカン・インディペンデント映画を代表する存在となったGus Van Sant(ガス・ヴァン・サント)
映画監督として高い評価を得ている一方、彼の活動は映画だけにとどまりません。
絵画を学んだ経験を持ち、写真、音楽などにも取り組んできたガス・ヴァン・サント。異なるジャンルの表現を横断しながら、一貫した独自の視覚世界を作り上げてきました。
今回は、そんな彼の映画だけでは見えてこない側面まで捉えるアートブック『Gus Van Sant: Icons』をご紹介します。
Gus Van Santとは何者か
ガス・ヴァン・サントは1952年、アメリカ・ケンタッキー州ルイビル生まれ。
1970年代にはRhode Island School of Design(RISD)で絵画を学び、そこで実験映画や前衛芸術、アンダーグラウンド・カルチャーなどに触れました。
もともと絵画を学んでいたことは、後の映画表現にも大きく影響しています。
ガス・ヴァン・サントの映画では、人物だけでなく、道路、空、雲、建物、車など、一見すると物語とは直接関係のない風景が印象的に映し出されます。
それらは単なる背景ではなく、まるで一枚の写真や絵画のように独立したイメージとして存在しています。
映画を「物語を伝えるためのもの」だけではなく、時間や身体、光、風景そのものを見せるための表現として捉えていることが、ガス・ヴァン・サントの大きな特徴のひとつです。
William S. Burroughsとの出会い


ガス・ヴァン・サントの作品を語るうえで、William S. Burroughsをはじめとするビートジェネレーションの存在は欠かせません。
1975年、ニューヨークにいたガス・ヴァン・サントは電話帳からバロウズの住所を見つけ、本人に直接電話をかけて会いに行ったといいます。その後も交流は続き、1989年の『ドラッグストア・カウボーイ』ではバロウズ本人を出演させました。撮影は本人の希望通り、わずか1日で行われています。
バロウズをはじめとするビートジェネレーションが持っていた、既存の社会や価値観から距離を置く感覚は、Van Santの作品にも通じています。
『ドラッグストア・カウボーイ』をはじめ、彼の映画には社会の中心から外れた人物や、既存の生き方に収まらない人々が登場します。
その視線は、ガス・ヴァン・サントの映画を特徴づける重要な要素となっています。
写真から映画へ


ガス・ヴァン・サントの視覚表現には、写真家William EgglestonやLarry Clark、アーティストEd Ruschaなどの影響も見られます。
特にEgglestonの、道路や車、建物、ガソリンスタンドといった何気ないアメリカの日常を写真にする姿勢は、ガス・ヴァン・サントの映像とも重なります。
何も起きていないように見える風景をじっと見つめる。
その時間が積み重なることで、現実の風景がどこか夢のようなものへ変わっていく。
ガス・ヴァン・サント自身も、若い頃から物を極端に接写する写真を撮っており、こうした写真で培った感覚を『ドラッグストア・カウボーイ』などの映画にも取り入れています。
映画とポラロイド



1991年の『マイ・プライベート・アイダホ』では、リバー・フェニックスとキアヌ・リーブスを主演に迎え、ストリート、ロードムービーなど異なる文化を交差させた独自の世界を作り上げました。
そしてガス・ヴァン・サントは、映画の撮影だけでなく、俳優やミュージシャンたちをポラロイドでも撮影してきました。
映画の中では「役」を演じる人物を、ポラロイドでは一人の人間として捉える。
リバー・フェニックスとキアヌ・リーブスの何気ない表情や姿は、映画のキャラクターとはまた違ったイメージとして残されています。
映画、写真、絵画、音楽
ガス・ヴァン・サントの作品では、映画、写真、絵画、音楽、文学が明確に分かれていません。
それぞれのジャンルから得たイメージや感覚を組み合わせ、それを映画という媒体へ変換していく。
だからこそ彼の映画には、物語だけではなく、写真のような一瞬の強さや、絵画のような構図、音楽のような時間感覚が存在しています。
フランスのCinémathèque françaiseが2016年に開催したガス・ヴァン・サント展でも、彼の映画だけでなく、写真、絵画、音楽を並列して紹介し、William Burroughs、William Eggleston、Harmony Korine、Ed Ruschaなど、彼が影響を受けた人物との関係まで掘り下げています。
『Gus Van Sant: Icons』


2016年、パリのCinémathèque françaiseで開催された展覧会に合わせて刊行された『Gus Van Sant: Icons』
映画作品だけではなく、写真、Polaroid、絵画、ドローイング、音楽などを映画と並べながら、ガス・ヴァン・サントの創作活動全体を捉えた一冊です。
さらに本人へのインタビューを中心に、彼が影響を受けてきた文化やアーティストについても紹介されています。
208ページ、250点以上の図版を収録した本書は、単なる映画写真集ではありません。


彼の映画が好きな人はもちろん、写真、アート、音楽、ファッション、そしてアメリカのアンダーグラウンド・カルチャーに興味がある人にも、ぜひ手に取ってほしい一冊ですので是非店頭にてご覧ください。





