Top Photo by Neo Sora ©2017 Kab Inc.
音楽家、アーティストとして50年以上に渡り、多彩な表現活動を通して、時代の先端を常に切り開いてきた”坂本龍一”
さまざまなアーティストとの協働を通して、音を展示空間に立体的に設置する試みを積極的に思考、実践した坂本が生前に東京都現代美術館のために残した展覧会構想を軸に、坂本の創作活動の長年の関心事であった音と時間をテーマにこれまでの代表作と未発表の新作を展開する、日本では初となる最大規模の個展「坂本龍一|音を視る 時を聴く」が開催中だ。
坂本と高谷による水の世界
まず注目すべきは、1999年より長きに亘り、共にクリエイションに挑んだ高谷史郎(DumbType)とのコラボレーション作品である。
坂本と高谷の作品には水や霧が重要な要素として登場する。
2007年に発表された「LIFE–fluid, invisible, inaudible…」(2007)は坂本のオペラ「LIFE」(1999)をベースとするサウンドに包まれた空間を舞台に、頭上に浮かんだ9つの水槽が明滅する中を、庭を散策するようにしばし佇みながら、ゆっくりと歩み、従来のリニアな体験とは異なる時空間の拡がりと流れを体感できるインスタレーション作品。
前衛的で美しい「async」シリーズ
前作『Out of Noise』以来8年ぶりに発表されたオリジナル・アルバム「async」
非同期な音楽を作ることを目標に制作された本作は、エンジン音や外から入ってくる街のノイズなどを取り入れ、複数の時間が同時に進行している音楽を目指して制作された。後にリリースされたリミックス版「async-REMODELS」では、ALVA NOTO、ONEOHTRIX POINT NEVER、ARCA、YVES TUMORなどの気鋭のアーティストが参加している。
「async」をきっかけに、同アルバムを「立体的に聴かせる」ことを意図し、 Zakkubalan、アピチャッポン・ウィーラセタクン、高谷史郎 らとインスタレーション作品を制作。
2011年の東日本大震災の津波で被災した宮城県農業高等学校のピアノに出会ったことをきっかけに生まれた作品「IS YOUR TIME」
被災したピアノを「自然によって調律されたピアノ」ととらえ、大自然の営みによって「ひとつのモノ」に還ったピアノを、世界各地の地震データを使い、地球を鳴動する装置として生まれ変わらせた。
被災したピアノは「async」収録曲「ZURE」に使用されている。
Zakkubalan とのコラボレーション作品「async–volume」 (2017) は、「async」制作のために坂本が多くの時間を過ごし たニューヨークのスタジオやリビング、庭などの断片的な映像が、それぞれの場所の環境音とアルバム楽曲の音素材をミックスしたサウンドとともに一つのインスタレーションとして構成された作品です。24台の iPhoneとiPad が壁に配され、鑑賞者は世界に開かれたたくさんの“小さな光る窓”を通して坂本の内面を覗き込む。
タイの映画監督・アーティスト、アピチャッポン・ウィー ラセタクンとのコラボレーション作品「async–first light」(2017)
「デジタルハリネズミ」と呼ばれる小型カメラを親しい人たちに渡して撮影してもらった映像で構成された本作は、解像度が低く粗い画面に独特の温かみのある色味でそれぞれの私的な日常が切り取られている。本作の映像のために坂本がアレンジした「Disintegration」「Life, Life」の 2曲も注目だ。
大注目の最新作
音楽を空間に立体的に設置する「設置音楽」のコンセプトに沿って、アルバム『async』の楽曲を使ったいくつかのインスタレーション作品を制作している坂本と高谷。
「async–immersion tokyo」(2024) は、坂本の没後にこれまでの「async」シリーズを深化させた形で AMBIENT KYOTO 2023 で発表した大型インスタレーションを東京都現代美術館の展示空間にあわせて再構成する新作。
真鍋大度とのコラボレーション「Sensing Streams 2021–invisible, inaudible」は、携帯電話、WiFi、 ラジオなどで使用されている電磁波という人間が知覚できない 「流れ(ストリーム)」を一種の生態系と捉えた作品。
今回の展示のために屋外に 16m に渡って延びる帯状の LED ディスプレイを用い、常に変貌を遂げる東京という大都市の目 に見えないインフラの姿を映像と音で描き出す。
1970年に大阪万博のペプシ館を水を使った人工の霧で覆った「霧の彫刻」で知られ、世界各地で霧のプロジェクトを実施している中谷芙二子とのスペシャル・コラボレーション。 坂本龍一+中谷芙二子+高谷史郎「LIFE–WELL TOKYO」 霧の彫刻#47662は、東京都現代美術館屋外のサンクンガーデンを使って、霧と光と音が一体となった、自然への敬愛や畏怖の念を想起させるような夢幻のシンフォニーを奏でる。
さらに2002年以降アルバム制作、コラボレーションツアーを行なってきたカールステン・ニコライ(Alva Note)との新作「PHOSPHENES」「ENDO EXO」が展開されている。両作品はジュール・ヴェルヌの空想科学小説「海底二万里」から着想を得た初の長編映画「20000」のためにニコライが書いた脚本全24章より、2章を映像化し、坂本の最後のアルバム「12」より「20210310」「20220207」というトラックを使用している。
こうした様々なコラボレーターとの創作により、新たな世界を創造し、常に最前線で活躍してきた坂本龍一。
坂本龍一の「音を視る、時を聴く」ことは、鑑賞者の目と耳を開きながら、心を揺さぶり、従来の音楽鑑賞や美術鑑賞とは異なる体験を生み出す。坂本が追求し続けた「音を空間に設置する」という芸術的挑戦と、「時間とは何か」という深い問いかけは、時代や空間を超えて、私たちに新たな視座をもたらし、創造と体験の地平を開き続けてくれるだろう。
当店では「坂本龍一|音を視る 時を聴く」のフライヤーをお配りしていますので、是非お持ち帰りください。
会期:2024年12月21日~2025年3月30日
会場:東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00~18:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月、12月28日~1月1日、1月14日、2月25日(1月13日、2月24日は開館)
料金:一般 2400円 / 大学生・専門学校生・65 歳以上 1700円 / 中高生 960円 / 小学生以下 無料