TOP 江康泉《Singer》2018 © Kongkee. Image courtesy of the artist.

江康泉 日本初の展覧会 電気心音が金沢21世紀美術館にて開催

マンガ、アニメーション、絵画、インスタレーション、パフォーマンスといった多様な領域を横断しながらジャンルやメディウムの枠にとらわれない創作活動を展開してきたマレーシア生まれ、香港とロンドンを拠点に活動するアーティスト江康泉(江記/Kongkee)の日本初の展覧会 「電気心音」が金沢21世紀美術館にて開催中です。

彼の作品は東洋の古典文学や思想、歴史的モチーフを参照しながら都市と個人の記憶、アイデンティティなどのテーマを重層的に結びつけ、過去・現在・未来が交差する独自の世界観を形成しています。

古代とサイバーパンクを融合したアニメーション「離騒幻覚」

代表作となるアニメーションシリーズ「離騒幻覚(りそうげんかく)」では、「もし始皇帝が不死の秘密を手にし永久かつ絶対的な統治を築いていたとしたら?」という仮説を起点に人間とアンドロイド、サイボーグが共存するサイバーパンクな世界を描き出します。そこで人々は不老不死と引き換えに「永生計画」システムに接続し、個人の身体と意識は厳密な監視と管理に服し、一方でシステムの支配を拒む者たちは「祭司」として活動を続けます。

本作の主人公であるアンドロイド「祖」は「祭司」であった楚の屈原の記憶と人格を複製された存在。彼は、歴史と現在、現実とフィクションの境界を往還しながら人間という存在にとって根源的主題である「自由意志」と向き合います。

このアニメーションシリーズは江康泉が2013年より不定期に連載しているマンガ作品『汨羅虚擬』を起点として展開されたプロジェクトです。江康泉、李国威(リークォワイ)、崔嘉曦(チュイカヘイ)の共同監督のもと2017年に《離騒幻覚:汨羅篇》、2018年に《離騒幻覚:刺秦(ししん)篇》が制作・発表されました。シリーズは約80分の長編アニメーション映画としての完成を目指し、2018年4月よりクラウドファンディングによる制作資金の調達が開始されました。2020年に公開された《離騒幻覚:序》は、同年にTBS主催の第22回DigiCon6においてグランプリを受賞しました。

《離騒幻覺:序》2020年 ヴィデオ 14分49秒
ディレクター:江康泉、崔嘉曦、李国威
Image courtesy of the artist.

「離騒幻覚」のサイバーパンクな世界を拡張する作品群

アニメーション本編と併せて「離騒幻覚」の世界観を拡張・展開する多様なメディウムによる作品群を紹介。江康泉は香港の都市風景を象徴する赤いタクシーのドアを支持体として用い、その表面に「離騒幻覚」の登場人物のドローイングと伝・屈原作の詩の一節を重ねることで、フィクションの物語世界と現実の都市空間との接続を試みました。またシリーズの原点となるマンガ『汨羅虚擬』の原画や、アニメーション制作における絵コンテ、キャラクターデザインなども併せて展示され、「離騒幻覚」という多層的な世界観がいかに構築されているかを視覚的に辿ることができます。

アニメーションという時間芸術を核としながらもその物語世界は、ドローイングや彫刻などの多様な形式で展開され、現代都市の記憶やサイバーパンク的想像といったテーマと多元的に交差しています。

江康泉  左上:《思美人》 右上:《離騷》2018年
エナメル塗料、アクリル / 既製品のタクシードア
H114×W120×D17cm、2点組 作家蔵
© Kongkee.
Image courtesy of the artist and gdm.
江康泉 左下:《離騷》 右下:《思美人》 2018 年
エナメル塗料、アクリル / 既製品のタクシードア
H112×W107×D17cm、2点組 作家蔵
© Kongkee.
Image courtesy of the artist and gdm.

古代から伝承された物語を未来の視点から描く最新作「未来本生譚」

「本生譚(ほんしょうたん)」とは釈迦が過去世において様々な姿で生きた物語を伝える仏教説話です。江康泉による「未来本生譚」は、古代から伝承された宗教の物語に未来的な視点を重ね、人工知能がある日突然「悟り」に至るという仮想の世界を描いたシリーズです。AIは、果たして人生の意味を見出すことができるのでしょうか。あるいは、私たち人間はロボットとの対話を通してインスピレーションを受けることができるのでしょうか。

本シリーズでは絵画、アニメーション、レンチキュラーライトボックス、ネオン管といった多様なメディウムを駆使し、江の想像力が多層的に展開されています。視覚表現においては敦煌石窟の壁画や教会のステンドグラス画といった宗教美術へのオマージュが見られる一方で、ACG文化(アニメ・マンガ・ゲーム)に特有の造形言語も色濃く反映されています。

古代と未来、宗教とテクノロジー、東洋と西洋——対照的な要素がひとつの画面に共存し、そこには来たる時代の信仰や精神性に対する江なりの問いかけが込められています。

江康泉《如露亦如電》2025年
ミクスト・メディア / 亜鉛めっき鋼板
H107×W107×D2.5cm 個人蔵
© Kongkee.
Image courtesy of the artist and gdm.

江の多彩な映像表現を紹介

江康泉はキャリア初期より漫画家・アニメーターとして活動を展開してきました。近年発表された短編アニメーション作品にも焦点を当て紹介されています。

カラー作品においては伝統的な中国山水画の表現方法を参照しつつ、スターフェリーや道路標識といった香港の都市風景を重ね合わせることで過去と現在が交錯する映像空間を構築しています。一方で哲学的主題を扱ったモノクロ作品ではより抽象的かつ内省的な表現を通じて、思索の視覚化を試みています。
江のアニメーションは形式的にもテーマ的にも実験性に富み、個人の記憶や都市の変容、東洋哲学的思考などのテーマを独自の詩的映像言語によって描き出しています。

江康泉《River》 2020年
ヴィデオ 5分5秒
© Kongkee, courtesy of the artist

このように江の作品はマスメディアによって世界中に流通・定着してきた西洋中心の未来像とは異なり、アジアの歴史と文化に根ざした視点から人間とテクノロジーの関係性に対するもう一つの未来像を提示しています。そこで重要となるのが「アジア・フューチャリズム」という視座です。これは、グローバリゼーションの進行によって均質化しつつある視覚文化や価値観に対する批評的応答としてアジア独自の哲学と美学を基盤に未来に対する想像力を再構築しようとする試みです。この「アジア・フューチャリズム」という視点で江の多彩な表現を展覧会を通じて感じることができます。

江康泉《マリア》2025年
レンチキュラー・ライトボックス
φ112×D5.5cm
© Kongkee.
Image courtesy of the artist and gdm.
《Once in a Lifetime》2025年
ヴィデオ サイズ可変
© Kongkee.
Image courtesy of the artist.

FRAGILEでは「電気心音」のフライヤーを配布していますので、気になった方は是非お手に取ってみてください。

視覚芸術とアニメーション監督を主な活動領域としながら、インディペンデント出版や映像芸術やイギリスを代表するロックバンド Blurとのコラボレーションによるマンガ『香江模糊記』を発表するなど異分野とのコラボレーションでも注目の江康泉。日本初の展覧会は彼の様々な側面を一挙に観ることのできる展示となっています。

江康泉 電気心音

会場:金沢21世紀美術館 長期インスタレーションルーム、プロジェクト工房、交流ゾーン

会期:2025年10月18日(土) – 2026年3月22日(日)

休場日:月曜日(ただし10月27日、11月3日、11月24日、1月12日、2月23日は開場)
10月28日、11月4日、11月25日、12月30日〜1月1日、1月13日、2月24日

お問合せ:金沢21世紀美術館 TEL:076-220-2800

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