近年、BLACK MIDIを中心としたサウスロンドンポストパンクムーブメントの若いミュージシャンや、トム・ヨーク率いるTHE SMILEやレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーのソロアルバムでもジャズの要素を取り入れたアルバムを発表している。

これらのミュージシャン達の試みはこれまでジャズに触れてこなかったリスナーにとって、古めかしく思われるジャズの実験性や斬新さに興味を持つキッカケを与え、ジャンルそのものへの関心も高まってきているように思う。

ジャズは決められた枠の中で個人の意思で伸び伸びと演奏する自由さが人気を博するジャンルではあるが、先程のミュージシャンたちやポストパンク、インダストリアル、ノイズ 、実験音楽にも影響を与えた、ジャズの中でもよりアンダーグラウンドで実験的な「フリージャズ」は奥の深い魅力がある。

「フリージャズ」とは

他の演奏者の音に瞬時にアドリブで反応する、身体表現的なサウンドを追求する、ルールから解放されたジャズこそがフリージャズであり、フリージャズは真の意味での自由度を追求しているジャンルだ。

1950年代末〜1960年代初頭より、ジャズの一部のアーティストたちはコード進行や拍子という枠組みを窮屈に感じてその構造を解体するようになり、1961年発表のオーネット・コールマンの楽曲「Free Jazz」で、全員が同時に、そして自由に演奏するというフリージャズの原型となるアイデアを提示した。それまでもジャズでも決められた枠の中で自由にプレイすることはできたのだが、フリージャズではまさにその枠そのものを失くして自由に演奏できるので、感情の爆発、剥き出しの演奏をアーティストが表現することができる。まさにそれこそがフリージャズ最大の魅力だ。

例えばフリージャズの歴史の中でも特異点、可能性を広げた重要作とされるジョン・コルトレーンの「Ascension」と、サン・ラの「The Magic City」の2曲を聴いてみてほしい。

コルトレーンの「Ascension」はオーネットの発想を発展させた11人の大規模編成で個々のソロと集団即興が繰り返される緊張と解放の連続が癖になる。サン・ラの「The Magic City」では、もはやコードや拍子、型式までも消滅した、始まりと終わりが曖昧な音の空間アプローチを提示し、音楽という点のみならず、まさに創作の思考的な実験がなされた。この二曲はのちのノイズ 、即興音楽、アンビエント、現代音楽に多大な影響を与えていくこととなるのだ。

ここまでわずか3曲だが、現代私たちが愛聴する音楽への影響力を感じていただけたと思う。上記のサウンドを気に入った方は是非一度フリージャズの世界を深掘りしていただきたい。その際には今回入荷した書籍「FREE JAZZ AND IMPROVISATION ON LP AND CD 1965-2024」は役に立つだろう。

フリージャズ60年分の記録「FREE JAZZ AND IMPROVISATION ON LP AND CD 1965-2024」

本書は2014年に刊行され創造的音楽の広大な記録地図を読み解くための基本文献として瞬く間に受け入れられプレミアム価格が付くほどのレア本となったフリージャズの必携ガイドブック。

1965-2024年にわたり即興音楽、フリージャズの記録史を横断する本書は、185のレーベルについて執拗なまでにディテールを追求し、確かな眼差しでマッピングしており、1960年代半ばにESP-Disk(ニューヨーク)、BYG/Actuel(パリ)などが切り開いたフリー・ジャズの勃興から、FMP(ベルリン)、Incus(ロンドン)、ICP(アムステルダム)、Po Torch(アーヘン)が記したヨーロッパ即興運動の軌跡、さらにClean Feed(リスボン)、Trost Records(ウィーン)、Astral Spirits(オースティン)、Smalltown Supersound(オスロ)といった現在の動向までをカバー。
美学的な構想、文化的文脈、そしてそのレーベルを特異なものにした演奏家と主催者のネットワークを描き出すとともに、Absinth Records(パリ)の手描きスリーヴからFMPの象徴的なカヴァーに至るまで、溝に刻まれた音だけでは語り尽くせないフリージャズ文化の全体像を、視覚と聴覚の両面から記録。
ストリーミング・プラットフォームがすべてを均質化し、物理メディアが単なる懐古に矮小化されがちな時代にあって、レーベルがなぜ重要かをあらためて示すとともに、キュレーションの視座、視覚的提示、継続的な記録が、創造的音楽の存続と発展に不可欠であることを提示する一冊。

本書の魅力

本書は約60年分の歴史を取り扱うので、初期のフリージャズからヨーロッパの即興シーン、日本のアンダーグラウンドシーンなどを体系的に捉えやすく、このシーン全体の専門書としての役割を果たしてくれる。

またCD文化再評価への視点も面白い。CDが普及してからもフリージャズは音楽的進化を遂げているにもかかわらず、レコードと違い、CDはいまだに下火のままであるが故にディグの対象外となっている場合が多い。その時代に生み出された名曲や実験にフォーカスが当たる日は現在想像に遠いが、本書から気になるCDをピックして聴いてもらえば、おもしろいアーティストやサウンドに出会えるだろう。

こちらの書籍は現在FRAGILEの店頭にて絶賛発売中です。ノルウェー人美術史家であり音楽研究者のヨハネス・ルーのまさに狂気的ともいえる記録が我々を未知のフリージャズ体験に導いてくれると思います。是非店頭にてご覧ください!

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