1960年代前半、リトアニア系アメリカ人のデザイナー兼建築家であるジョージ・マチューナスを主導に、欧米中心にヨーロッパ各地で展開された前衛芸術運動『FLUXUS(フルクサス)』
ラテン語で「流れる」、「変化する」といった意味のある「フルクサス」という言葉から名付けられたこの集団は、作曲家、デザイナー、建築家、詩人、パフォーマー、舞踏家などの約70名ほどで構成され、ドイツ、アメリカ、日本など約10カ国のメンバーからなる国際的なグループであった。主要人物は、ナムジュン・パイク、ヨーゼフ・ボイス、ヴォルフ・フォステル、オノ・ヨーコ、久保田成子らが挙げられ、日本からは他にも一柳慧、刀根康尚など9名が参加していた。一柳慧をはじめ、所属メンバーの多くが音楽家ジョン・ケージのスクールに通い、大きな影響を受けていた事も特徴の1つである。
フルクサスの活動はジョージ・マチューナスが亡くなる78年まで継続され、それまでメンバーも移り変わりが激しく、メンバーと非メンバーの区別も曖昧であった。
彼らの活動を表現するのであれば、芸術的な価値を否定する反芸術的なものである。誰もがアーティストになれるという考えや日常の中にアートを見出すという考えが彼らの活動の根底に存在しており、彼らは日常と芸術の境を曖昧にしていく。
彼らの活動は主にゲリラ・シアターやストリート・ショウ、電子音楽のショーなど、その場限りの『イベント』と呼ばれるパフォーマンスであった。
イベントとは、スコアという楽譜のようなものに従って行われる計画されたパフォーマンスであり、スコアを見れば誰でも行えるように作られていた。更にイベントを行う場所は展示会場などではなく街中など誰でも目につくような場所で行われていた為、その場にいた観客たちを巻き込むこともあり、アーティストになるという過剰に上がっていたハードルを下げたのも一つの功績である。
イベントは一回限りの開催が多かった為に、写真や映像などで過去の活動を見ることは非常に困難となっている。
展示物などはあまり多くなかったフルクサスだが、フルクサス新聞の発行やフルクサスのアーティストの作品をまとめた『フルクサス・イヤー・ボックス』や『フルックスキット』などを出版する事で国境、人種問わず彼らの活動が広まり、世界的な影響力を獲得した。
本書は2022年5月から9月にベルリンのギャラリー「シュテーグリッツ農園邸宅(Gutshaus Steglitz)」で開催された展覧会に伴い刊行されました。
本展の展示作品は、主催者であり、アイデアの発案者であるマチューナスと「フルクサス」に参加したアーティストの多様な活動を紹介しています。そのほとんどがマチューナスの友人でもあった前衛映画の巨匠、ジョナス・メカス(Jonas Mekas)の遺品であり、ニューヨークの「メリルC.ベルマン・コレクション(Merrill C. Berman Collection)」経由で「Noartcollect」に収蔵されました。
本展のキュレーションを担当したドイツ人キュレーターのブリギッテ・ハウスマン(Brigitte Hausmann)による序文や、ドイツ人美術史家のトーマス・ケライン(Thomas Kellein)、ドイツ人美術史家、キュレーターのドロシー・リヒター(Dorothee Richter)によるテキストも収録されています。
こちらの作品集は、現在Fragileにて絶賛発売中です。
フルクサスの作品集はあまり制作されることはなく、大変貴重なアイテムですので是非お早めに店頭にてご覧ください。
softcover
108 pages
210 x 290 mm
color, black and white